「競売」はよく聞く言葉でどんなものか多くの方が御存知だと思いますが、「任意売却」は聞き慣れない言葉ですね。「競売」は不動産についている担保権を活用し、法的手続によって債権を回収する手段です。
他方、「任意売却」は借入金などの支払いが困難になった場合、競売などの法的手続によらず、所有者(債務者)と金融機関などの債権者の間に仲介者が入り売却代金の配分方法などについて合意し、その合意に基づいて売却する手段で、所有者はもちろん債権者にとってもメリットが多い方法です。
「例えば、会社の社長さんが、借入の支払いを数カ月滞らせました。金融機関は当然のように返済を迫ります。担保に入っている不動産を処分して返済にあてるよう要求します。しかし、社長さんは今を乗り越えれば事業が好転すると考えています。社長さんには自宅と工場があります。どちらも担保に入っていますが、工場を処分してしまうと事業ができなくなるので、自宅は処分して債務を圧縮し、月々の返済を少なくして事業を継続させようと考えました。金融機関は競売にかけるか任意売却するか検討します。その結果、まず、社長の協力を得て、自宅のみを任意売却し、債務の圧縮ができる金額が用意できれば社長の事業継続に協力できるという結論になりました。
私たちは金融機関と社長さんの意向により、適正な売却金額を査定し、買受人を探し、他の金融機関(自宅は2社の金融機関が担保をつけていた)と配分の調整を行い、無事任意売却を成功させ、社長さんは事業の再生に取組んでいます。もし、任意売却という手法を取らず、競売ということになれば、社長さんの自宅も工場も1年間もかけて市価を下回る価格で売却され、事業はもちろんできず、会社の破産、社長さんの自己破産という結果になるのは明白でした。
担保不動産や借入金、事業内要、個人の資産、収入などの状況もいろいろなので一概には言えないところもありますが、競売より早く多く確実に返済できるのが任意売却です。この方法がもつ社会的意義は大きいと考えています。Aさんは住宅ローンを滞納していました。銀行からの督促状には目もくれず放っておいたのですが、ある日競売の申立てをされてしまいました。それでも、何とかまとまったお金を用意して銀行に掛け合えばどうにかなると勝手に判断していましたが、債務のすべてを返済しなければ銀行は取下げをしてくれないことがわかり、弊社に相談されましたが、時は期間入札開始の3日前でした。Aさんは任意売却を知らなかったといいます。3日間ではさすがに手を打つ事ができず、そのまま落札され、Aさんに残ったのは債務だけでした。「任意売却」はまだ馴染みのない言葉ですし、一生のうちにそう何度もあってはたまりませんが、Aさんが少しでも任意売却を知っていれば結果は違ったはずです。
私たちは不動産を手放なさなければならない方々の「痛み」を知っています。さらには手放したあとの安堵も知っています。任意売却は不動産の所有者と私たち、さらには関係者が共同で処理しなければならないものです。しかし、競売では成し得ない「三方一両得」ができる唯一の方法だと思います。

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